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2009.04.19 (Sun)

最終楽章、そして始まりへと導く青の序曲

 3月下旬、午前11時ごろ。
 様々な〝青〟に装いを変化させる海が、遥か彼方の水平線
で、空の青と長3度の絶妙なハーモニーを奏でている。さながら
〝青の交響曲〟ってとこか。時折アクアマリンのそよ風が、
ソロで登場。絹のような肌触りのその旋律を感じていると、去年
の今頃を思い出す。
 1年ぶりの再会を喜んであわてて視界に飛び込んできてくれた
白いカモメたちが、青の曲調に効果的なアクセントを添えた。


 蘇宇卦夷大学の入学演奏コンクールが行なわれてからもう、
1ヶ月以上が過ぎた。その結果はというと、おれたちN京高オケ
が優勝した。

 当初の発表どおり、おれたちは蘇宇卦夷大学への入学を
認められた。ただし、おれたち40人全員が蘇宇卦夷大学に
進学したわけじゃない。ゲン、ダイ、リョウ、アキリン、クニほか
25、6名ぐらいは進学を選んだ。ゲンは、オーケストラ部に
入って、そこでもコンサートマスターになってオケと自分自身
を有名にする、なんて言っていた。コンマスになれるかどうか
は知らないが、部長にはなれそうだな。クニはこの大学で
何をしたいのか、不明だ。
 入学を希望しなかったやつらは、それぞれが自分なりに
選んだ道を歩む。ジンは、親の家業を継ぐために、大工
見習いとなる。ユッコは、できるだけ早く旅行業に携わり
たかったから       もうやってたけど・・・・     
親の反対を押し切って、その関連の専門学校に通うことに
なった。ボスは、プロのジャズベーシストになるための
修行中だ。

 ともにがんばり、落ち込み、笑い、励ましあってくれた
39人の仲間に、感謝。

 ところでおれはというと、おれも蘇宇卦夷大学には入学
しなかった。大学に行かないわけじゃない。今おれは、東
久我楽宮音楽大学に来年入学するために日夜受験勉強中だ。
 おれは、この音大に入って指揮者を目指す。そしてあの
じいさんが、いや、あの先生が日本にいる間は四六時中
ついてまわって指揮の勉強をするつもりだ。
 なぜおれが指揮者になりたいのかというと、
 それは          


「桜島くんっ、なに一人でぶつぶつ言ってるの?ほら、見て
見て!あそこの船、私たちがバイトをしていた船に似ている
と思わない?」
 隣にいるミオが、おれの袖を引っ張ってうれしそうに遥か
遠くの船を指差していた。

 今おれたちがいるのは、去年初めてデートした海の見える
場所だ。毎年この季節に、二人でここへ来ることを約束した
んだ。
 ミオは、おれより一足早く4月から東久我楽宮音楽大学に
無試験で入学することが決まっている。入学早々じいさんの
指導を受けることになる。じいさんは、ミオのその才能をヴァ
イオリンの方で開花させたいらしい。
 2月にあった入学コンクールに来てくれたじいさんは、その
時おれたちの高校名を知り、学校側にミオの音大入学を強く
勧めたそうだ。うちの高校は、世界的に有名な指揮者からの
勧めであるがゆえに、あわててミオに音大入学について打診
し、そしてミオがそのことをおれに相談してくれたんだ。
 おれは、真摯な気持ちでミオと話し合った。ミオはおれと一緒
に音大を受験すると言ってくれた。泣けてくるほどうれしかった
が、ミオにとってとてつもなく大きなチャンスであることは間違い
ないのだから、おれも彼女に今年音大に入ることを勧めた。
 こうまでしてじいさんが指導をする以上、ミオは来年の秋ぐらい
にはじいさんに連れられてウイーンへ旅立つことになるだろう。
 だからおれも、必死で勉強して指揮者としての実力を認めて
もらってウイーンへ留学するんだ。そして、いつか必ずミオの
ヴァイオリン・ソロ、おれの指揮による協奏曲で、世界中を飛び
回ることを二人の共同目標にしたんだ。

 おれはミオが好きだ。


       だが、おれはもしかしたらそれ以上に彼女が創り
出す音楽、彼女のいる音の世界にあこがれているのかもしれない。
 どちらにしてもミオはミオだろ?と別のおれがささやく。

 だがどうしてもそう思えない。ミオの音楽性は、あまりにも巨大で
そして異彩を放っていて、とてもミオの中の一部と捉えられないんだ。
 1年前には思ってもみなかったこの道を選んだのも、まさにそれが
あったからだ。

 思い返してみればこの1年、演奏のことでたくさん助けられたし
元気をもらったよな、こいつに。おれにとっては、まるで音楽の
女神さまみたいなやつだ。

 おれをここまで一生懸命にさせてくれたミオに、感謝。

 そして、これからもおれはこいつの音楽を追い求め続けるだろう。


 それから最後に、おれたちにクラシック音楽の素晴らしさを教えて
くれたベートーヴェンに、感謝。




                                   Fine

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  最後まで書ききることができたのも、皆様のおかげと感謝してお
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  これからは、次の作品を載せるまでのんびりと皆様のサイトへの
  訪問三昧の日々を過ごそうかと考えております。よろしくっ!
  それでは、Sehen wir uns wieder! ♪

  
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EDIT  |  08:50  |  最終楽章  |  TB(1)  |  CM(6)  |  Top↑

2009.04.18 (Sat)

ありがとうございます!

こんにちは。『長塚茶臼京高校オーケストラ』の作者の
ゆうたろうです。
何しに現れたんだ?と、作中人物のゲンたちならつっこむ
ところですが、今日は彼らに内緒でやってまいりました。

で、本日お知らせしたいことは、明日更新予定の最終楽章
(エピローグ)でこのお話も終わりとさせていただきます、と
いうことです。
ここまでお付き合いいただき、励まし、ご忠告、ご意見、共感
などの言葉を投げかけてくれた皆様、本当にありがとうござ
いました。

 ここで、一部の方となって申し訳ございませんが、お世話に
なった方々をご紹介させていただきます。

 yukoさん。このブログを立ち上げて間もない頃、お話を書き
始めたのはいいけど、続けられるだろうか、誰も読んでくれ
ないのでは・・・、と不安な毎日(大袈裟?)を送っていました。
そんな時、偶然見つけたのがyukoさんのブログでした。そこ
から伝わってくる温かいメッセージにはとても勇気づけられ、
がんばってみようかなという気持ちにさせてもらえました。
yukoさん、ほんとに感謝です。
 dejavuewordsさん。同じくブログ立ち上げ時、ヨロヨロの
精神状態(大袈裟な)にあったぼくは、初めてお教えを
請いました。その時、簡潔にもかかわらず、原稿用紙
100枚分ぐらいの重みと温かさと広さを感じさせるお言葉
をいただき先を続ける力を与えてもらったことが思い出され
ます。dejavuewordsさん、感謝感謝です。
 tsukushiさん。いろんな面でお世話になりっぱなしだった
のが、この方です。技術面(ブログの)においても、精神面
においてもいろいろ学ばせていただきました。とにかく旺盛
な執筆量、アイデア、サイトから伝わる明るさには、訪問する
ごとに感心させられます。これからもお邪魔しまーす!
もちろん今日も読ませていただきます(もちろんポチ押し
まくり!)。
 オガワヒカリさん。辺りがもうほとんど見えないような夕闇の
中、ポッとふんわりと灯った光のように勇気と明るさをくれた
のがヒカリさんです。ヒカリさんの文章は、デジタルの世界での
ことなのに、あたかも原稿用紙に万年筆で書いたようなやわら
かさをいつも感じていました。他の皆様からもそうですが、すごく
勉強させていただきました。最近はどちらでご活躍でしょうか?
激しい日常を送られているようですが、次のお話、お待ちして
おります!
 遥香さん。文章のこととかで、貴重なアドバイスをいただいた
ことを本当に感謝しております!最近更新されていないのは、
もうどこかの国に留学されたのでしょうか。
 Ukimoさん。いつもありがとうございます。こちらも楽しく読ませて
いただいております。GLAY、今もいいですけどアルバム『BELOVED』
もよく聴いてます!
 
 初期のお話は、N京オケのメンバー(ついでに作者も)は
クラシック音楽は初心者でしたので、よく楽器の画像をお借り
しました。藤木様朝羽様HONOKA様、魅力的な画像ほんとう
にありがとうございました。ブログを華やかにすることができて
今も感謝しております!

 最後に、お話しをしたことがなくとも応援してくださっている
みなさま、ありがとうございます!

 
 このお話は、一応明日で終わるのですが、完成したとは
決して言えないと思っています。
 ここはこうしたらいいんじゃないの、とかこの表現はおかしい
とかお気づきのところがありましたら、何でもけっこうです
のでお言葉お待ちしております。それがこれからの勉強に
きっとなると思っております。次に発表する作品にも活かしたい
と思います。よろしくお願いしまーす!

 今後は、次の作品を掲載するつもりですが、まだ全然予定
がたっておりません。ですのでそれまでは、みなさんのサイト
に今までどおりお邪魔して勉強させていただこうと思っており
ます。


 長くなってしまいました。
みなさんほんとうにありがとうございました!
それではまた明日。

 

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EDIT  |  12:17  |  お知らせ  |  TB(1)  |  CM(2)  |  Top↑

2009.04.11 (Sat)

第24楽章 6小節目

           ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 おれたちの演奏が終わり、船上パーティーもお開きとなり、船が港に
着いた。子供たちが船を降り始めると、演奏会場でうろうろしていた謎の
サンタクロースがそれを見送るために手を振っていた。
 いたいたっ。もう帰ったかと思って心配したぜ。おれは足早にサンタク
ロースに近づき声をかけた。
「おい、じいさん」
「じいさんではありまセーン。わしはサンタクロースデース」
「とぼけたって無駄だよ。おれにはもうバレてんだから」
「フッフッフッ。よく分かりましたね」
「じいさん、あんたクラシック音楽界の世界的巨匠なんだろ?こんな
とこでサンタクロースやってるなんて、ひまなんじゃない?」
「何を言うのデスか。今回のように子供たちを集めて音楽を聴いて
もらうのも、将来の音楽家を育てるための大事な仕事デース」
「つまり、この企画をユッコの親父に立てさせたのも、おれたちに演奏
依頼が舞い込んできたのもじいさんが裏で糸を引いていたってこと
だな?」
「オウ、しまったデース。語るに落ちる、というのはこのことをいうの
デスね?しかし、君たちの演奏上の悩みを解決するきっかけになれば
とも思ったのデース」
「ああ・・・・。じいさん、ありがとう。おかけでおれたち、吹っ切れたよ」
「フッフッフ。そのようですね。しかし雷が落ちて停電になることまでは、
さすがに私も予想できまセーンでした。ボーイ、君はよくあんな光る
棒を用意していましたね」
「あの指揮棒は、最初から光ってたんじゃないんだ。光ったわけは、
これさ」
 
 おれは、ポケットから小さな瓶を取り出した。ラベルには、〝蛍光塗料〟
と書いてあった。

「オウ!やるじゃないですか。備えあれば憂いなし、とはこのことですね?」
「その言葉、ちょっと使い方がおかしいと思うな。それよりじいさんっ、
来年の2月に蘇宇卦夷大学で入学演奏コンクールというのがあって、
おれたちそれに出場するんだ!ぜひ聴きに来てくれ」
「オウ、それはもちろん行かせてもらいマース。なぜならば、私はまだ
ミオちゃんをあきらめていないからデース」
「コラ!気安く〝ミオちゃん〟なんて言うな。       ところでじいさん、
あんたこの前あと2年は日本にいるって言ってたよな?それ間違い
ないのか?」
「それは間違いありまセーン。まあ、たまに仕方なく世界のどこかへ
指揮をしに行って留守にするぐらいデース。それがどうかしましたか?」
「い、いや別に      。あっ!それとじいさん、もう一つ
言いたいことがあるんだ。じいさん、あんたおれたちがあの音大へ行っ
たとき、人に感動を与える演奏とはどんなものか教えることができるって
言ってたよな?けどあんた、全然教える気なんかなかっただろ?」
「・・・・・・・・・・・」
 じいさんは、黙ってニコニコしたままだ。おれは言葉を続けた。
「さらに言うならば、あんたがおれにそれを教える代わりにミオを紹介
しろと言ったとき、おれが必ず断わることも最初から分かっていた」
「フッフッフ。どうしてですか?君たちは、感動を与える演奏とはどういう
ものかをのどから手が出るほど知りたかったのでしょう?もしかしたら
君は、私の交換条件に応じたかもしれない」
「い~やっ。あんたは絶対におれが断わると思っていた」
「フッフッフッフッフ」
 じいさんは、ただ静かに笑いながら白いつけひげをしごいていた。

「なんでおれがそう思うかと言うとだな。じいさん、あんたはおれたちに
感動を与えることができる演奏を教えるなんてことは、できないからだ」
「オウ、今の言葉はクラシック音楽界の第一人者である私に対して、
あまりに失礼デース」
 じいさんは、そう言いながらも声が笑っていた。
「何を言ってやがるんだ。今さっきの演奏が終わったときおれは、いや
おれたちは気がついたんだ。人に感動を与える演奏がどんなものかを
教えてもらって頭で理解しようとしたって、そんなもの何の意味もない
ことを。それは、心で感じなければ解らないんだ!勇気づけてあげたい
とか、元気づけてあげたいという思いを込めて実際に演奏して、それが
聴く人の心に響いたときに、感動してもらえるんだ!そしてそのことは
演奏者と聴く人との心が通じ合えたことを実感できて、初めて解ると
おれは思うんだ。だからじいさん、あんたはそれを教えるなんてことは
できない。そして、そのことを当然承知していたから、絶対に応じない
であろう交換条件を選んで提示したはずなんだ」
 じいさんはニコニコしながらしばらくおれを見つめていたが、一つうなず
いてから口を開いた。
「フッフッフ、ですがミオちゃんの才能は、本物ですよ」
    それは、そうだ      

 先ほどの嵐のような激しい風雨は嘘のように止み、クリスマスの夜は
急に寒さを増してきた。子供たちは全員船を降りて家路についたようで、
港を船から見下ろしているおれとじいさんは、シンとした静けさに包まれた。
ふと気づくと、夜空を覆っているぶ厚い雲からふんわり雪が舞い降りて
きた。

 じいさんが、何か思い出したようでおれに尋ねてきた。
「オウ、ボーイ!それはさておき私こそ君に聞きたいことがありマース。
君は、この前音大に来たときに〝クソジジー〟の意味をいずれ教えて
くれると言いました。今、ぜひとも聞きたいデース」
「う・・・・・・。憶えてたのか・・・・・・。そ、それはだな、それは・・・・・・
〝尊敬できる先生〟っていう意味さ!」
「オウッ!それはうれしい言葉デース。日本にいる間に、もっとそう
言ってもらえるようにがんばりマース!」
「い、いや、そんなにがんばらなくても、みんなそう思っているから大丈夫
だよ。それよりじいさん、あと2年、絶対に日本にいろよ」

 じいさんはニコニコしながら黙っていたが、やがて右手を上げたままゆっくり
船を降りていった。

 〝Sehen wir uns wieder(またお会いしましょう)〟の言葉を残して。


                           to be continued・・・・・  


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EDIT  |  10:39  |  第24楽章  |  TB(0)  |  CM(0)  |  Top↑

2009.04.04 (Sat)

第24楽章 5小節目

 ジャン!!!


 暗闇の中、突然明るく響いた勇壮なイ長調主和音は、子供たちを驚かせる
のに十分であったらしい。潮が引くように泣き声が消えていった。
 彼らは、なぜ真っ暗なのに演奏できるのか不思議そうにこちらに目を向けて
いるはずだ。しかし、そのステージは闇に包まれて何も見えないだろう。
 唯一つ、まるで意思を持っているように宙を舞い、闇の中から音楽を生み出し
ているかのように見える、1本の“光る棒”以外は。


 第1楽章冒頭。2小節ごとに立ちはだかる荘厳な和声の水門を、か細いが
決して途切れることのない強靭な意志を感じさせるオーボエ、クラリネット、
ホルン、ファゴットの歌が小川のごとく潜り抜けていく。
 10小節目に差し掛かり、場面が変わる。寄せては返すf(フォルテ)とp(ピ
アノ)の音の波。その波の上をきらめきながら跳ね回る無数の上行音階。
すべては計算されていて、それでいながらまるで無秩序とも思える音の波が、
岸辺に砕け散るような賑やかさでしぶきとなって空間に拡散していく      
 そうだ、これは海だ!小川の水がついに海に出たんだ!もしかしたら
ベートーヴェンは、海をイメージしてこの第1楽章を書いたんじゃないだろうか。
かれは生涯海を見たことがない、とも言われている。彼は11歳の時に母親に
連れられ、ライン河を下る船旅を経験している。目的地はオランダのアムステ
ルダムだったそうだ。だけどアムステルダムはやや内陸で、そこからは本当
の海を見ることはできない。彼は、見渡す限り広がる青い大海原にあこがれて
いたんじゃないだろうか。タイトルに“海”という言葉が使われた曲は、1815年、
ゲーテの詩により作曲されたカンタータ「海の凪と成功した航海」が初めて
だが、その2年前に発表された、おれたちが今演奏している「交響曲第7番」
ですでに“海”を表現していたとおれは確信した。
 32小節にわたって激しい波にもまれた小川の水は、42小節目以降陸から
離れ、ようやく小康状態を得た。しかし目の前にはまだ陸が圧迫するかのご
とく存在し、そこから完全に脱し切れていない。それでも彼(小川の水)は
少しずつ大洋へと突き進んでいく。
 63小節目。やがて陸がかすかに見えるほどのところまで来たことに気が
ついた彼は、辺りを見回す。大きくうねる波。果てしなく広がる水平線。波が
陽光を反射して、光の絨毯を敷き詰めている。人間を感じさせるものは、どこ
にもない。下を見れば、吸い込まれてしまってもう戻れないのでは、と思わせ
るほどの原初的な恐怖を感じさせる青黒い水が漂っている。

 海だ!これが海なんだ!

 89小節目。彼はようやく大海に出たことを悟った。本当の“海”に出会えた
ことを、かれは心の底から喜んだ。ホルンによる主題がイ長調の和声に乗り、
彼の心の喜びを表現するかのごとく高らかに鳴り響いた。
 もう、子供たちの泣き声は聞こえない。たぶん、おれたちの演奏を聴いて
くれているのだろう。今、彼らの唯一の心の支えは、おれたちの演奏だ。
 ベートーヴェンはこんな時、人を明るく強く励ましてくれる。


 その後も演奏は、様々な海の表情を描き出し、そうして450小節目、力強い
イ長調の主和音を奏し、海の物語を終えた。
 演奏が終わった直後、やっと電灯が点いた。大きな拍手が湧き起こった。

 礼をするために客席の方を振り向いたおれは、目をキラキラさせながら一生懸命
に手を叩いてくれている子供たちを見て、やっと分かったような気がした。

 そうか。そういうことなんだ。

 おれは拍手を浴びながらしばらく客席を眺めてぼんやりしていたが、ハッと
気がついてあわてて演奏者の方に向き直り、叫んだ。
「みんなっ!」

 今演奏を終えた彼らも、目をキラキラ輝かせて笑っていた。
 そして、もうこれ以上何も言わなくても分かっているということを、みんなは
おれにうなずいて教えてくれた。



                             to be continued・・・・・

 [参考文献&CD]
 ・『ベートーヴェン 交響曲第7番 イ長調 作品92』  全音楽譜出版社
 ・『ベートーヴェン』 平野 昭著  新潮文庫
 ・『LUDWIG VAN BEETHOVEN SYMPHONIES NOS.5&7』
BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA
HERBERT VON KARAJAN
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EDIT  |  10:06  |  第24楽章  |  TB(0)  |  CM(0)  |  Top↑

2009.03.28 (Sat)

第24楽章 4小節目

           ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 客席を埋め尽くした子供たちが、ワイワイガヤガヤ騒いでいる。
 開演時間が迫っていた。
 演奏者がチューニングをしている間、おれは舞台袖で客席を
眺めていた。

 この騒ぎようじゃ、おれたちの演奏を聴いてくれるかどうかあやし
いもんだな。
 今日の演奏は、かなりの集中力が要求されそうなことをおれは
覚悟した。
 一つ気にかかっているのは、客席の子供たちの間をちょこまか
動き回っているサンタクロースがいることだ。なんかおれの知って
いる人間のような気がするんだが・・・・・・。でもま、いいか。
 外は雨が降り出し、大嵐になっているという客船関係者の話を
耳にした。話どおり、こんなでかい船なのに、時々明らかに傾いて
いることが分かる。客席でも何人かの子供たちは、不安そうな
顔をしているようだ。


 合図がでた。
 おれは拍手半分、話し声や笑い声半分の中、舞台中央へ向かって
歩き出し、指揮台までたどり着くと客席に向かって一礼し、指揮台
に上った。

 指揮棒を持って構え、演奏開始のための静寂のタイミングを待つ。
演奏者は、息をこらしてじっとおれを注視している。ベートーヴェン
作曲『交響曲第7番 イ長調 作品92 第1楽章』。全奏者f(フォルテ)
の出だしとあっては、全員、気が抜けない。

 今だっ!みんないくぞ!

 おれは指揮棒を振り下ろそうとした。が、その瞬間、会場内の
灯りが全て消え、漆黒の闇に包まれてしまった!同時に客席から
は、悲鳴と泣き声が湧き起こった。

 しばらくして、船内アナウンスで、落雷が船を直撃し停電したこと。
火災等は発生しておらず、現在復旧作業中なので、もう少しその
ままで待ってほしい旨が告げられた。
 しかし、そんな連絡は暗闇に怯えている子供たちの心には届か
なかったようだ。客席は、連鎖反応を起こした子供たちの泣き声で
満たされていた。

 おれたちオケはというと、おれはただぼんやり突っ立っている
だけだし、他のみんなも姿はまったく見えないが、たぶんなす術も
なくただ座っているだけだろう。
 怯えて泣いている子供たちを何とかしてやりたいと思うが、おれた
ちにできることは演奏しかない。しかもその演奏さえ指揮が見えない
状態じゃバラバラになる恐れがあるので、できない・・・・・。

 停電してからだいぶ時間が経っているように感じた。暗闇の時間が
長く続くほど不安を増幅してしまうようで、子供たちの泣き声がます
ます大きくなってきた。

 くそっ、おれたちに何かできないんだろうか。
 おれは、何もできなくてただじっとしている自分が悔しかった。

 その時、なにげなく触れたポケットに何か硬いものがあることに
気がついた。

 ん?何だこりゃ?おれはポケットからそれをつまみ出し、しばらく
眺めてからニヤッと笑ってつぶやいた。


「あいつ、やるじゃん」


                            to be continued・・・・・  

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