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2008.07.25 (Fri)

第17楽章 5小節目

  思い出した。ユッコは確か、でっかい旅行会社の社長の娘だった。

 それにしても・・・・、声を上げたほとんどのやつらの考えていること
は、大体分かる。
 どうせ、“お客さんを前にしてのコンサートか。カッコいい〜”とか
“ギャラを稼ぐなんて、おれたちプロじゃん”とかだ。

 ばかやろうどもめ!それどころじゃないだろ?
 おれはあわててユッコに言った。
「ちょ、ちょっと待て、ユッコ。おまえの提案はありがたいが、おれたちは
未だに曲を最後まで演奏したことがないんだぞ!?い、いや最後どころ
か今のところたったの2小節しか全員で合わせていないんだ!そんな
おれたちが、いきなりお客さんの前で演奏!?しかもそれで金を取る!?
それはあまりにも無謀すぎないか!???」

「“いきなり”じゃないと思うわ」
 カオが立ち上がって、おれに向かって言った。
「だって、船で演奏するのは夏休み中でしょ?ということは、今、4月下旬
だから、あと3ヶ月ぐらいあるじゃない。それぐらいあれば大丈夫じゃない?
合宿は、夏休みの最後の週あたりで行くことにするわ」

「“金を取る”っていうのも間違っているわ」
 今度は、ユッコが反論した。
「私たちの演奏は、あくまでその企画の中の一つであって、お客さんは
その演奏のためだけにお金を払うわけじゃないもの。ま、だから言って
みれば、ちょっとしたバイトって感じよ」
「う、ううう・・・・・・・。だけどあとたった3ヶ月ぐらいの練習で人前に・・・・」
「心配ないって。クラシックの演奏といってもお父さんは、あんまり肩ひじ
張ったものにはしたくないって言ってたから、私たちぐらいのオケの方が
かえって親しみが持てていいかもしれないわよ。まあ、私たちは練習の
つもりでやればいいんじゃない?」

 親しみどころか、お笑いコミック楽団にならなければいいが・・・・・・。

 おれは、口には出さず、心の中でそう言い返した。



 もう、もはやこの流れは、おれの力では止めることはできそうになかった。


 大丈夫なのか?ホントに?・・・・・・・・・。




                            to be continued・・・・・
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2008.07.24 (Thu)

第17楽章 4小節目

「はいはいは〜い!みんなちょっと聞いてぇ〜!」
 大いに盛り上がって好き勝手にしゃべり続け、しまいには帰ろう
とする雰囲気まで漂わせ始めた楽団員たちに、カオがパンパンと
手を叩きながら大声で呼びかけた。

「みんな、合宿には行くことで全員一致したんだけど、一つ解決
しとかなければいけない問題が残っているのよ」
 カオが、おれたちを見渡した。
「どこへ行くかとか、何泊するかとかは、まだ全然決まってないん
だけど、それでも当然のことだけど、それなりのお金が必要になる
のよ」

 音楽室内が、水を打ったようにシンと静かになった。

 やがて、みんな必要もないのにヒソヒソ声でしゃべり始めた。
「金か・・・・・・。おれ、出せるかな?」
「どのくらい要るんだろう・・・・・?」
「う〜ん・・・けっこう要るんじゃねぇの?」
「あのさあ、おれたちの親、コンクールに出るための練習、許して
くれてるだろ?だからさ、もしかしたら合宿へ行く費用も何とか出して
くれるんじゃねーか?」
「そう言えばそうだな。頼み込めば出してくれるかも・・・・・・」
「うん、いけるかもしれない」
「そうだそうだ」
「そうよね」
「だよな。心配することねーよ」

 音楽室内が、あっという間に楽観的なムードに包まれた。
 
 まったく・・・・・おまえら相変わらずノリが軽いな・・・・・。

 おれがそう思っていた時、チェロパートあたりから声が挙がった。

「ハイッ、ハイッ!私、発言しますっ!」
「ユッコ、何か意見があるのか?」
 おれは何やらいやな予感がした。
「あの・・・・、お金を親に頼るのも仕方がないと思うんだけど、せっ
かくみんなで力を合わせてがんばっているんだから、お金もみんなで
力を合わせてなんとかしない?」

 それを聞いて、一同ざわめいた。

「ユ、ユッコ、それどういうことだよ?」
 おれは、みんなを代表して質問した。
「あのね、うちのお父さんの会社で、今度夏休みの期間中、豪華客船
で東京湾をクルーズする企画が出ているの。その船で、昼と夕方の
2回、クラシックの演奏をすることになりそうなの。そこでぇ、私たちの
オケにここで演奏させてもらって、ギャラを稼ごうってわけよ」


「え〜っ!!!」


 全員思わず一斉に声を発した。




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EDIT  |  08:24  |  第17楽章  |  TB(0)  |  CM(2)  |  Top↑

2008.07.22 (Tue)

第17楽章 3小節目

「はいはいは〜い!静かにしてっ!みんな、今話をしている
合宿というのは、私たちが演奏する曲を練習するために行く
のよ。そこ、忘れちゃだめよっ!」

 カオが、おれの言おうとしてたことを言ってくれた。
「そ、それと、なんかもう合宿に行くことで決まったような勢い
だけど、まだ正式に決まったわけじゃないぞ」
 おれは、恐る恐る小声でカオに申し立てた。
「もうっ。桜島くん細かいわね。みんな行くに決まってるじゃない。
ま、いいか」
 カオは、全員を見渡して言った。
「みんなー!今夏休みに合宿に行く話をしてるんだけど、ここで
正式にそれを決めちゃいたいの。合宿行きに賛成の人は、手を
挙げて〜!」

「ハ〜イ!」

 全員の手が勢いよく挙がった。

 う〜ん・・・。あざやかな手際だ。何かおれよりもカオを指揮者にした
方が、よかったんじゃないか?

 おれがそう思った瞬間、急にカオがおれの方へ顔を向けた。
 ギクッ。今おれが思ったことが伝わってしまったか!?

「桜島くん、私は旅行の計画を立てるのとかが好きだから、その
ことに関してだけはものすごくやる気が出るんだけど、私は桜島
くんみたいにオケをまとめることはできないわ。だって桜島くんみ
たいに指揮者の才能ないもの」

 やっぱり、伝わっていた・・・・・。それにしても何だってぇ!?
才能?カオ、おまえ何言ってんだぁ?

 おれは、思ってもみなかったことを言われてびっくりした。

 ねえだろ、そんなもん。おれに。

「ま、とにかく合宿行きは決まったことだし、桜島くん、あ、それと
八坂くん後はよろしくお願いね」
 カオがいたずらっぽく笑って言った。
「へ?何を?」
「合宿よ。合宿の手配」
「え〜っ!!」
 おれとゲンは、思わず悲鳴を上げた。コンサートチケットだけでも
一苦労だったのに、合宿の手配なんて・・・・・・・・・。

 おれたちは、同時に叫んだ。
「そんなことおれたちにできるわけないだろ〜!?」
 見事にハモッた。
「うふふふっ、冗談よ。合宿地とか宿泊先とかスケジュールとか
は、私がバッチリ考えるから、お二人さんには、そのチェックだけ
お願いするわね」

 相変わらず音楽室内は、騒然としていた。
「楽しみだなあ。何泊するんだ?」
「何か演奏旅行に出かけるみたいね」
「というか、演奏できるようになるための旅行でしょ?」
「おれ、なんかやる気が出てきたぞ!早く練習しようぜ」
「でも、もうだいぶ時間が経っちゃってるぜ」
「お、ほんとだ」
「ま、コンサートチケットも手に入ったし、合宿行きも決まったし、
今日は有意義な日だったよな。じゃあ、ここらで解散といこうか」


 茫然自失のおれは、もはや楽団員を練習のために引き留める
気力もなくなっていた・・・・・・・。



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EDIT  |  18:40  |  第17楽章  |  TB(0)  |  CM(4)  |  Top↑

2008.07.20 (Sun)

第17楽章 2小節目

  おれは、譜面台に手をついて、しばらく顔を上げられなかった。

「何だ〜、またかよぉ〜!何でおまえらいつも演奏直前に邪魔
するんだよ〜!?」
「あら、今回は指揮棒を振り回す前だったから、いいでしょ?」
 待ったをかけた声の主である、カオが言った。
「そういう問題じゃねえ!で、何なんだ?」
「話があるの」
「・・・・・・カオ、悪いが後にしてくれないか?」
「だってぇ、早めに話しておいた方がいいと思ってぇ・・・・・」
「だから、練習が終わってからみんなで聞くからさ」
「練習の後だったら時間がなくなっちゃって、みんな帰っちゃう
じゃない」
「じゃあ練習時間はなくなってもいいっていうのか?」
「うふふ、まあまあまあ。私が話したいことは、その練習のことと
大いに関係があるの」
「練習と!?どういうことだ?」

 結局、おれはカオの話に乗せられてしまった。

「ね、夏休みにみんなで合宿に行かない?」

「合宿!?」
「そ。合宿」
「・・・・・カ、カオ。やっぱりその話は来週の月曜日に        

「おー合宿かあー!いいじゃない、行こうぜっ!」
「おもしろそー。思い出になるわ」
「集中して練習できるじゃないか。アイ、行こうぜ!」

 話が長くなりそうだと判断して、おれが来週にしてもらおう
と言いかけたのと同時に、おれの言うことを押しのけてみんな
しゃべり出した。
 アッというまに音楽室内は、ワイワイガヤガヤ騒然とした雰囲
気に包まれてしまった。

 一瞬遅かったぁ・・・・・・。こうなってしまっては、もうどうしよう
もない。

「どこに行く〜?夏なんだから涼しいところがいいなー」
「そりゃそうだ。北海道なんかいいんじゃない?」
「うんうん!いい、いい」
「いや、やっぱ夏は海だろう?海で泳がなきゃ夏じゃないぜ」
「その通りだ!おまえよく言った。おれは日本海側で泳いでみた
かったんだ」
「ねねねねね。それよりも、いろんなイベントやってたり遊ぶ場所
があったりする所の方がおもしろいと思わない?」


 おれは、頭を抱えたくなってきた。練習時間がなくなっていく・・・・。

 しかもおまえら、何のために合宿へ行く話しをしているのか、
分かってんのか〜!?



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EDIT  |  09:03  |  第17楽章  |  TB(0)  |  CM(2)  |  Top↑

2008.07.19 (Sat)

第17楽章 1小節目

        ということで、今みんなに配ったチケットに書いてある通り、
NHK交響楽団のコンサートを聴きに行くことになった」

 土曜日の放課後の音楽室。
 練習の前に、おれは40人全員のコンサートチケットの入手に成功
したことを報告した。
 チケットは、何とか40人分残っていて、ぎりぎり間に合った。
 もちろん、このコンサートチケットを入手するきっかけとなる、チケット
売り場を発見したゲンの功績が大きいことも、おれは言い忘れなかった。

「私たちが演奏する曲をやっているコンサートがあってよかったわ。
やるじゃん!」
「おれは、料金が安いのが一番だ」

 みんなの要望をある程度実現できて、とにかく一仕事終えたって感じ
で、おれはホッとした。
「公演は、1ヶ月後の日曜日だ。みんな、プロの演奏に負けないように
がんばろーぜっ!」
「オーッ!!」

 みんな威勢のいい声で応じながら演奏の準備に取り掛かった。
 おれは、アキリンに軽い調子で尋ねた。
「アキリン。今日は大丈夫か?」
「お、おう。まあ大丈夫だ」

 先週は、アキリンのオーボエの大乱調のおかげで練習中断の憂き目
にあってしまったが、その後こいつが猛練習したことをおれは知っている。
 きっと今日は、うまくやってくれるだろう。


 演奏準備が整ったみたいなので、おれは気分良くみんなに声をかけた。

「さー、それじゃあそろそろいってみようか!」


「ちょっと待ってぇー!」




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